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大阪都構想の選挙がもたらしたこと

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橋下徹大阪市長と率いる維新の党肝煎りの、大阪都構想。
その是非を問う住民投票が実施され、やはり反対派が上回って構想は廃案に。やはりといっても事前調査では賛成有利とされ、開票してみたら僅差勝利の反対票。数年前の大阪市長選と同じで、結果が分かりきった選挙、といえばまあ、それまで。しかし、選挙自体はやる意義があったのではないか。

この選挙があること、いや、そもそも大阪都構想というアイデアをうち出せねば、大阪の二重行政問題に焦点が当たることはなかった。人を選ぶ選挙だったら、なんとなく、アイドルを選ぶような感覚で一票を投じてしまいがち。市長や議員の席に座る者の名前が変わろうが、庶民の暮らしはあまり影響は受けまい。しかし、住んでいる自治体の住所や役所の場所や、サービスが変ってしまったら? 投票者の皆さんは身ぢかにこの問題を引き受けて、考えに考え抜かれたに違いない。

とかく、国の行政には、国民の意見を問わない取り決めが多い。
いま話題の派遣法改正や残業代ゼロ法案しかり、そして集団的自衛権の行使容認しかり。自民党はTPP反対派の多い農協を支持母体にしていたのに、TPP交渉のテーブルに就くや、勢力を殺ぐために農協の解体を急いでいる。そして、つい最近も、憲法改正を行わないままに、自衛隊の海外派兵の条件を緩和して法制化してしまった。

集団的自衛権の拡大について、もはや国民のほとんどが暗黙のうちに是認されようとしているのは、今年の二月のイスラム過激派組織による日本人人質事件が多分に影響しているからであろう。中国や北朝鮮との緊張関係が続くなか、日本も軍事力を強化したほうがいいという主張は根強い。くわえて、アベノミクス効果で株価も上昇、大企業はベースアップ実現、景気浮揚策が奏功しているので、国民のほとんどは安倍政権にもの申すこともない。

大阪都構想を挫くものがあったとしたら、まさに、この外患のために内憂の芽を積みたかったという意識であろう。日本に二つの都が共立する。それは首都東京が発する号令をはねのける独立国の誕生を意味する。沖縄が基地受け入れを拒むように、軍事上ないしは国際的政策上、つまづきの元となるものに大阪がなったとしたら? あきらかに純正な日本人でないものの割合が多いだろう、その府が東京と同じだけの権力を持ったとしたら? 日本が他国にのっとられてもおかしくはないのではないか? 安倍政権の憲法改正に好意的な橋下氏の進退がかかった選挙、国政に影響するのではないか、という見方もあるが、維新の影響力低下はさきの衆院選でご覧の有り様だったのだから、国政への影響は鑑みるほどではない。

大阪都構想のこの選挙は、国の機能が弱体化しつつあることを狙った上での地方自治体強化策であったのが、この選挙自体は、逆説的に国体の維持を高めてしまった。なぜなら、橋下維新が大阪国統一を果たした限りは、今度はこの国自体を統一するという野望に燃えていないわけがないからである。維新という名前が示すように、彼らがやろうとしたことは、二百年遅れた政変だったに違いないのだが、国民は民主党への政権交代への失敗を教訓としたから、蛮勇的なふるまいの変化を好まなくなった。

今回のこの選挙の投票権は大阪市民のみである。大阪市以外の府民には問われなかった。
しかし、その投票権を全国民に広げたとしたら、おそらく反対票が圧倒だったに違いない。多くの大阪市民以外にとっては、市長が自分のアイデアのために、またしても公金で選挙をしたと感じたことだろう。

選挙の投票率は総じて高かった。
投票率が高いのは、黙っていたら、政権に近い多数で有力派の根回しによって、何もかもが取り決められてしまうからだ。さよう、この国の選挙とは、そのほとんどが「否定のための選挙」に他ならない。否定をする時に国民は動く。日本人は黙っていれば、それはイエスなのだと信じる国民性なのである。そして、橋下氏が勝ちつづけたのは、彼が既得権益に抗する弱者の側、挑戦者であったからだった。自身がすでに既得権益となり、勝者となったとき、彼は引きずり降ろされるという悲哀と戦わねばならなくなったことだろう。

だから、国の中枢にいる政治家はぜったいに、大事なことは選挙に持ちこまない。国民のいちいちに尋ねて歩いたりなどしない。わざと愚かなふるまいをして、国民に政治家はなんとお馬鹿さんなのかと呆れさせ、選挙にいっても休日が潰れてあほらし、と思わせることに苦心する。政治家が愚妹に見えるのは、彼らが無能だからではない。むしろ、彼らは有能なのである。自分の国の舵取りを、ささいな蟻のひと声、しかし集まってみれば獅子の咆哮にもあろうという声にじゃまだてされないように、最大の注意を払う。すなわち、彼らは国民に選ばれた民主政治のヒーローであることを装いながら、周到に国民から政治を遠ざけようとするのだ。そして、国民も自分を選挙のときだけは煩わしいだけで、あとは政治について忘れさせてくれる、そんな政治家を選んできた。おそらく、この政治的関心の集中と分散は、選挙権が18才に与えられるようになっても変わりがないだろう。国民総勢が一挙に政治に無関心になるのは、文化や食生活、レジャーの水準が高いせいでもある。

今回の大阪都構想の住民投票は、この政治の逆説に気づかせてくれた。それだけの意味では、結果を問わずに意味があった。人々の支持を得て期待されたヒーローが、次第に支持者たちの声を遠ざけ、より除け、押しつぶし、独りよがりになったあげくに、自分を支持した声によって退路を断たれようとする。しかし、それはサヴォナローラの改革やら、フランス革命のジャコバン派やら、歴史がつねづね証明してきたことであった。西郷隆盛の唱えた征韓論、陸軍の台頭をめざした二・ニ六事件や五・一五事件のクーデター。破滅的な構想はその最初の提唱者を討ち死にさせたにもかかわらず、なぜかその思想だけ生きのびて、その構想が国に取り憑いた。

選挙期間だけ純粋な民主主義が機能し、それ以外の全期間がほぼ封建主義(あるいは近代帝国主義)に近い。そんな状況が続いていることを国民にそれとなく知らしめたことが、おそらく橋下徹という政治家の最大の業績だったのではないだろうか。そして、国民がこの政治の本質に気づかないまま投票しているかぎりは、いくら誰それが悪い、日本の政治は汚い、などと言いつづけても、首をすげかえているだけで政治は変わらない。

慰安婦問題をはじめとした橋下氏の言動には問題があろうが、多くの市民を選挙に向かわせた、という功績だけは評価されてもよい。ギャンブル嫌いの私からすれば、大阪にカジノ構想などを持ち上げているこの政党、橋下さんがいなけりゃ議員をやめる、なんて勝ち馬に乗りたかっただけの腑抜けた、各人のリーダー気質もないこの集団、失礼ながらすでに瓦解のカウントダウンに入っているのではないかと思うのだが。


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