Quantcast
Channel: 陽出る処の書紀
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2153

映画「タイタニック」

$
0
0

おうち時間が長いので自宅で映画鑑賞する方も多いのではないでしょうか。
私もここ最近、テレビと向き合う時間が増えました。DVDレンタルもしなくなり、動画サービス契約もしていないので、金曜ロード―ショーが毎週の楽しみになってしまいました。

5月7日、14日の二週連続放映の映画「タイタニック」はアンケートによる再放映希望ナンバーワン。
1997年公開の本作は、全世界でもセンセーショナルを巻き起こし、もちろんアカデミー賞でも11部門受賞。主演のレオナルド・ディカプリオを人気にした代表作。本作の主題歌とBGM集は昔よく聞いていました。

この映画、実家にビデオがありましたし、地上波放映は何度もされたので、内容は覚えているのですが、実は実はの拙ブログでは初レビューです。いつも見直すたびに、青みあふれる夏の流れるプールで泳ぎたいなみたいなアホな感想(酷)しかなかったのですが。今回はこの20世紀最大のロングヒット感動作を、ややツッコミながら視聴してみました。

1912年、英国の港から米国へ向けて処女航海に出た豪華客船タイタニック号。その沈没は、1500人もの命を奪った20世紀最大の海難事故だった。1990年代後半、とある調査チームが海底調査を行い、難破船から金庫に入った裸婦のデッサン画を発見する。これが報じられると、その素描のモデルになったと名乗る老女が現れた。彼女の口から明かされるタイタニック号沈没の真相とは…――。

その老女ローズはおよそ80年前、生き残りの乗客の一人。
没落貴族のひとり娘で米国の成り上がり実業家の御曹司とむりやり婚約させられて、人生に絶望中。身投げ未遂を救ったのが、もともと米国生まれの貧しい画家の青年ジャックだった。恋に落ちるふたりだったが、無情にも、深夜の客船が氷山に衝突し、船内は浸水しはじめる。

前半はいかにも女子人気の高そうな許されない恋のラブロマンス、後半は打って変わっての怒涛の災害サバイバル。並のパニック系映画ならば主役男女は絆を深めながら生き延びるというオチなのに、そこに行き着かない。しかも嫉妬に狂った男の仕打ちでとんでもないピンチに! ハラハラとトキメキの連続で最後は泣けます。わりと、勧善懲悪が別れていて単純な筋書きなのに、役者がいいせいか何度も観てしまいますよね。

今回は再視聴で新たな発見があったのですが、列記してみると。

・お嬢さまなのに逞しすぎるローズ。斧を振り上げるとか、唾飛ばすとか、フロイト絡みの下ネタ…。そりゃ中の人は、のちに別の船(あれも船長が「ジャック」ですよね?)にスカウトされるはずだ!
・フィアンセから貰った首飾りをよその男に平気で見せつけるローズ。しかもそのせいでジャックが濡れ衣で泥棒扱いに。
・だが、しかし! ジャックも他人のコートをうっかり勝手に拝借していた! しかも、避難中どさくさ紛れにモブのおっさんを結構殴っている。
・何度聞いても、ソプラノボイスすぎて違和感があるジャックの中の人(石田彰)!
・恋敵の御曹司がいかにも悪人面なのに、無駄にイケメンボイス! しかし、執念深いDV男! しかも、なぜか生き残る。
・「ボディガード」のハリソン・フォード並に暗躍する武闘派老執事、御曹司のせいで悲惨な末路に
・作中一番の良心は、船の設計士のアンドリュースさん。もう、この人が主役でいい!
・ラストに「あれ」をこっそり処分したローズお婆ちゃん、策士だね…。

と、いろいろ面白い部分はあるのですが、今の時期に重ねてみると、この映画の主題は身分違いの恋のかたちをした、格差社会へのアンチテーゼといったところでしょうか。それとも、何が何でも生き残るという愛と勇気の大切さなのでしょうか。

絶対に沈まないという過信から救命ボートを減らしたために、大量の水死者を生んでしまった。我先にと乗り込もうとする乗客。混乱を抑えるために暴力行使してしまう乗組員たち。船長のおじいちゃんは、もう現場指揮ができない…。

船底に近い三等客室ほど庶民階級の犠牲者が多い。死を覚悟して救命胴衣を着けなかったり、あえて船内に残った者もいる。娯楽の集まりで浮かれていて、リスクマネジメントを怠り、あまつさえ命の選別が行われはじめる……。まるで、現在の新型コロナウイルス感染拡大が止まらないのに、日本国民の声を無視して東京五輪開催にひた走る政府、スポンサー企業、組織委員会のメンバーたちそのものですね。

ちなみに、ジャックが描いたローズことケイト・ウィンスレットの裸婦画は、なんとジェームズ・キャメロン監督の直筆なんだそうです。

タイタニック号沈没事件については、中学時代の英語の教科書に取り上げられていたのでよく覚えています。
 There is no room for another person. という構文だったはずの、救命艇にもうこれ以上ひとを乗せられないという絶望の叫び。コロナ感染で病院に受入れを拒まれたまま亡くなる方もいると聞くたび、あの英語の教材テープの声を思い出しますね…。この時期にこれを放映すること自体が、日本の現状に対する痛烈な皮肉に違いありません。

ところで、ドガだの、ピカソ、マネだの著名な近代画家の作品をローズが所有していたのですが、額縁なしなのが気になります。複製だからほんとに薄いパネルみたいでしたね…。もちろん、これらの作品すべてが米国に渡った(…というか海に沈んだことになるのか?)事実はないですよね。ローズがモデルを務めたデッサンは、エドゥアール・マネの『オランピア』を気どったものなのでしょうか。




Viewing all articles
Browse latest Browse all 2153

Trending Articles