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あれからの神無月の巫女、これからの姫神の巫女(十一)

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ふたりは仲良くアメノムラクモ百合心中するに違いない
――そんなふうに考えていた時代が
読者(わたし)にもありました……( ノД`)シクシク…。



想い出というのは何処に仕舞われているのでしょうか。
「記憶」という意味合いでならば、もちろん脳でしょう。でも、何をしたか曖昧模糊としているが、だがなんとなく心地いい…そんな「気持ち」の集合体といった意味合いならば、ふさわしいのは胸の奥。同じひとが同じ時空に居合わせ、同じ体験をしたとしても想い出が食い違ってしまう。それは、気持ちに掛け違いが生じてしまったからではないでしょうか。

神無月の巫女のスピンオフ漫画「姫神の巫女」(漫画・原作:介錯 原案:姫神の巫女~千ノ華万華鏡~)の第十一回。電撃マオウ誌2021年3月27日発売の5月号掲載分。
とうとう、本作の山場にして、宿命の二人の決定的瞬間を迎える時がやってきました。ウェブノベルからして行く末を知ってはいるのだけれど、直視するのが怖くもある結末が。

さて、今回は重要回で特に仔細を語るので、ネタバレ注意となっています。なお、この回が収録されると思われる単行本第二巻は、5月27日発売となっています。現在、角川コミックウォーカーでも電子版が掲載中です。


****

故郷の島での秘儀・御霊鎮めの儀が催され、ついに血みどろの刃を交えるふたりの御神巫女、皇月千華音と日之宮媛子。
やはり戦闘能力の高い千華音が押しており、媛子は劣勢。本人の動きが固いうえに、刃渡りの差があるのだから言わずもがな。しかし、勝敗の行方は思わぬ方向へ――。

はい、結論から言いますと、窮鼠猫を噛む。
ウェブノベルでは千華音がいささか離人症(二重人格?)っぽくて、あっけない幕切れだったので、漫画版ではすこし変化をつける(もしくは展開自体覆す)のではないかと思われました。

そこでやはり疑問が浮かびます。
はたして「媛子が勝った」のか、それとも、媛子のお願いどおりに「千華音が勝たせてあげた」のか? 

媛子の流血が増えていくばかりで、対する千華音は涼しい顔。
傷つけることにためらいはなく、媛子の笑顔や偽りの約束の言葉までも次々に反芻していく。過去の容赦なく勝ちとった九頭蛇戦と比較すれば、やはり手加減があるようにも見受けられます。この原作者先生はやろうと思えば、某漫画ボックスで掲載された過去作ぐらい凄惨なバイオレンスは慣れっこ。ですが、あとがきから察するに、迷いがあったようで敢えて猟奇的にはしなかったようです。

勝敗の鍵を握ったものは、媛子の左手に輝いていました。
第一話のラストカット(単行本第一巻の裏面参照)、あのアニメ神無月の巫女ED絵パロディと騒がれた絵では、媛子は左利き(?)で暗示されていましたよね。 千華音ちゃんの手前わざと偽っていたのでしょうか。このリング、この話で唐突に現れるのですが、媛子ときたらいつ嵌めたのか? 最初、ふたりの記念品かなにかでトリガーになるのでは…と読んでいたのですが。

媛子の苦し紛れの声掛けと起死回生の突きにも惑わされずに、千華音が追い詰めて媛子、絶体絶命のピンチ! ところがその直後、千華音が胸を刺されてあっけなく散華。この隠し武器(暗器)、おそらく六話で千華音が九頭蛇に襲われたものと似たものなのでしょう。

満月とはいえ月明かりの夜で、一撃必殺のこんな技を繰り出すのは、相当狙って突きの練習を繰り返していたのでは。媛子は宮本武蔵よろしく、針で飛んでいる蠅を串刺しにする特訓でも重ねていたのでしょうか。しかも、止めの一撃をすべく千華音が足を止める瞬間を狙っていた! 持っている小刀も斬撃を受け続けてわざと折れやすくさせたのでは、瞬時に怯えたあの表情すらままごとで、とすら思える。千華音のあばら骨を通るように刃先を横にしたのも、細いものを隠していたのも、かなり計算づくめ。形勢逆転の心臓狙いしかなかった。

しかし一方、その前後の千華音の言動も気になります。
「これを狙っていたのね」と一度目は言葉にしてあしらい、二度目に受けた致命傷でも内心つぶやく。繰り返されると、いかにも自分の見落としが間抜けに聞こえる。重ねて、自分が媛子は殺せないのは承知だったと言いつのる。今わの際に曝け出す、そんな言葉。そして、すれ違いざま真心の告白を贈る。最後にわざと優しい微笑にして表情を固めたのは、死後に媛子の後悔を和らげるためなのか。

ここで不思議なのは、千華音が媛子の命を断たんとする瞬間、片手で真上から行おうとしたことです。下にひれ伏す相手ならば真剣の重力に任せて首か胸かを貫いたほうがいいですし、頭をかち割るならば両腕で振り降ろしたほうが勢いもあったはず。片手で横から薙ぐように切りつければ、上半身をねじるので敵から離れ、胸もとをガードすることもできたはず。長い刀身を活かせば、それが得策なはず。なぜ、そうしないのか? それは第二話で回想された初対面の「あなたは私が殺す」とは構図が似ていながら、異なる結末を迎えるから。千華音はあのときと違い、胸を媛子がわに向けています(トップ絵参照)。


姫神の巫女第二話(単行本第一巻52頁より)
初対面の千華音は警戒しているので、媛子と正対していない


そもそも千華音の動体視力ならば、媛子の左手にあるものでも見つけられたかもしれませんし、あの瞬間咄嗟の媛子の反撃も、空いている手で払うなり、後ろに引くなりできるのではないか。そうしないのは、最後の最後まで媛子に見惚れてしまっていたからではないか。迷っていたからではないのか。

息絶えようとするときの千華音の最期に媛子に向けた表情や、簡潔な台詞がそのすべてを物語っているように感じられます。
千華音の幻想のなかでは、媛子は抱きとめてくれようとしているのに、現実は…おそろしく冷酷。固い土の上に倒れるのみ。七話でつまづきかけた媛子を助けて、「愛してるわ、媛子」と口にせず、心に描いたあのうるわしい場面とは対照的な…。

絶命千華音ちゃんが棺のなかで、上下の唇をうっすら開けているのが、すごくリアルですね…。いまでも土葬をする習わしがある地域が日本には残っているようですが、水葬って鮫に食われないのかとか。

――ところが!
今回の話、最後にまたしてもどんでん返しが!
ここまで描くと、この死の儀式の重さが薄らぐような気がしたものの。事切れたままだと、あまりに可哀そうなので、この配慮なのか?

そもそも、「点穴」とは東洋医学でいうところのツボで、内臓の痛みが表面化した箇所なので、心臓をぶっ刺すコマがあるのもおかしい。内出血で普通に死にます。いや、殺すつもりだったのですが…。仮死状態にはできるの、これ? …ということで、これは、あくまで千華音自身のイメージだったのでしょう。皮肉にも媛子にそこを刺されるというのが、彼女と過ごした時間を思い返しては葬り、「こんな心無くしてしまえ」と悲痛な願いを吐露してしまった千華音の望んだ結末だったのかどうか。

御霊鎮めの儀に選ばれた御神巫女は、生まれながらにその身も魂も大蛇神に捧げられたもの。しかし、皇月千華音はあろうことか幾多の想い出とともに、心臓を媛子に捧げてしまった――そんなふうに読み取れそうですね。これに反して媛子はどういった感情が宿ったのか。

儀式後の千華音の亡骸に対してかけた言葉は、「ごめんね」なのか「ありがとう」なのか、それとも「おめでとう」なのか。あるいは、勝者としての形式的な述べ口上なのか。
アニメ神無月の巫女のクライマックスとはまた異なる、悶えたくなるような境地にさせてくれる、印象深い回でしたね。

次回は、この儀式の裏にある事情が明らかになるのか。
勝つことが名誉ではあるが、その実、個人の幸せではないとか。媛子が偽ったのはなぜか、どこまで嘘だったのか、そのあたりが暴かれていくのかもしれませんね。

今回はハード展開なので硬派な考察をしてしまいましたが、百合的には美しい演出もふんだんにあったりもする、なかなかおいしいエピソードでした。
「月と地球と太陽と、貴女がいればそれでイイ」という神無月の巫女番宣ポスターのキャッチコピーをまさに令和版にブラッシュアップしたら、婉曲的なポエムでなくて、素朴な女子高生の叫びになるという。でも、千華音はイマドキのJK言葉を使わないので若者っぽくないけれど、古きよき百合好みからしたらそこがいい。

毎回、最新話が出るごとにこれまでの話を読み返してみたり、神無月の巫女ふくめた過去作を思い出してみたりして、いろいろ気づかされることが多いですね。



あれからの神無月の巫女、これからの姫神の巫女(まとめ)
神無月の巫女のスピンオフ漫画「姫神の巫女」(2020年5月より連載中)の本誌掲載分の随時更新感想の一覧です。レヴューは各話やるとは限らないので、通し番号にしてあります。単行本派の方に配慮しないネタバレ全開となっています。

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