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Channel: 陽出る処の書紀
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映画「友よその罪を葬れ」

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日本の少年マンガで描かれる友情は、いっしょに勝利のために身を捨てて戦ってくれること、困った時には手を差し伸べてくれること、となっています。楽しいことも、苦しいことも分かちあってくれるような関係。しかし、関係が度を超して愛情に高まってしまった場合に友情に戻すことは難しく、また、金銭が絡んでくると長年の親交も途絶えてしまうのが人の常なのでしょう。

今回ご紹介する2009年のスペイン映画「友よその罪を葬れ」は、法と倫理の前に友情を試されてしまったふたりの男についての物語。いわゆるクライムサスペンスですが、ヒューマニティ溢れる良作とも言えます。

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ある大学の法学部にて有能な研究者ビセンテは、高潔な人格と高い倫理観を自他ともに認められ、次なる教授の最有力候補とされていた。父の友人であり、恩師でもある老教授フェルナンドとは、家族ぐるみの付き合いがあり、彼からの推薦さえあれば夢は目前。しかし、教授選考が近づいた矢先、フェルナンドが庭で妻を撲殺するのを目撃してしまう。翌日、フェルナンドの妻は河原で他殺体として発見され、警察は薬物中毒の前科犯による強盗殺人として処理しようとするが…。

真相を知っているが、父とも慕う友人を警察に突き出すことはできない主人公。彼にできることは、それとなくフェルナンドから距離を置くことだけ。フェルナンドに残された幼い息子を、妻のバウラが面倒みたいと言っても拒否し、やがてそのよそよそしさから、フェルナンド自身にも目撃されたことを知られてしまう。フェルナンドが犯行に及ぶには苦渋の決断があったのですが、正義感の体現者たるビセンテには殺人犯に味方することはできません。さりながら、友人を捜査の目から遠ざけるために凶器をそれとなく隠蔽してしまったりする。

やがて、ビセンテは無事に教授への昇進を果たすのですが、その直後、ライバルだった教官ダニエルが真相を嗅ぎつけはじめたことから、悲劇がはじまってしまいます。

台詞回しが巧妙ということもなく、役者がどれも見目麗しいということもないのですが、さりげない仕種などに主人公の置かれた鬱屈した心理状態が見てとれる、その演出がなかなか心憎いといいますか。ストーリー自体は単純で、90分ほどの短編なのですが、飽きがありません。はじめはあくまで傍観者であり、無関係でありたいと願っていた主人公は、ほんのささやかな友情を発揮させてしまったがゆえに、第二の殺人のれっきとした共犯者になってしまいます。そして、ついに警察の追究から逃れられないと悟ったとき、フェルナンドは悲愴きわまる決断を下さざるを得ない。「友よその罪を葬れ」というのこのタイトルの台詞が、ビセンテからではなく、友人から飛び出したときの悲痛な決意。また、それに至るまでのビセンテの懊悩の数々。フェルナンドと同等の罪を犯してもなお、あくまで自分は善人だ、と言い放ってしまう主人公の呵責と諦めの悪さ。しかし、物語の外側にいるものとして、それを責められようか。

最終的には、ビセンテはこの一件で家庭崩壊しかかっていた危機を乗り越え、新しい家族を得ることになります。しかし、知らぬが仏とはいえ、奥さんがビセンテの友情を好意的に解釈して慰めるラストは、なんともいわく言いがたい感興に駆られます。ビセンテには友情からではなく、野心や利己心からのフェルナンドへの許しがあったことは否めないのだからして。諸悪の根源は被害者にこそあり、殺されても仕方がない、と言ってしまうのはナンセンス。現代の法治国家では、そして法の番人である学者であればこそ、その罪は許しがたく、しかも、その法に縛られているがゆえに主人公はなおさら罪に加担してしまったともいえます。

似たようなことは誰にでも起こりうるだけに、なおさら深く考えてしまいますね。
自分の友人や愛する家族が過ちを犯した時に、はたして、どのように振る舞えるのだろうか、と。高潔たれとする理想の高さは、逆に人としての弱さと一体ではないか、とも。

監督はフアン・マルティネス・モレノ。
出演は、トリスタン・ウヨア、エミリオ・グティエレス・カバ、アルベルト・ヒメネスほか。


(2013年2月22日)

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