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今野緒雪の小説『マリア様がみてる─クリスクロス─』

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2022年から再熱したマイブームのマリみて再ハマり。
今回のランダムレビューは、祐巳と瞳子との関係性が前進していく重要な「クリスクロス」(2007年1月初刊刊行)

改めて読むと、いろいろ感慨深いものがありますねえ。初読時は、二年目のバレンタイン企画でネタばらしを次巻へひっぱったので、つまらなく感じたのですが…。あと、この巻レヴュー済みだと記憶していたのですが、記事をあげていなかったんですね。

タイトルのクリスクロス、直訳すれば聖なる十字でしょうか?
こじれた先輩と後輩の気持ちが交錯する? お目当てのものを探し出そうとして振出しに戻るダメ出しのバッテン。あるいは、地図上のマーキングとしての×印。本編ではさまざまな意味あいを含んではいるようです。

***

・「クリスクロス」

リリアン女学園ではバレンタインチョコの受け渡しあちこちで見られるバレンタインデー。
山百合会に新聞部企画でもちこまれたのは、恒例のバレンタインイベント、次期薔薇さまがたとのデート券獲得、お宝探し大会。

祐巳、由乃、志摩子の二年生トリオが校内のどこかしらに隠したカード。
一、二年生はもちろん、祥子や令たち現薔薇さままでもが参戦。生徒会選挙のあとの祐巳へのあらぬ誤解から気まずくなってしまった瞳子も、祥子からのけしかけで参加することになるのですが…。

まずバレンタイン模様。
祐巳はしっかりチョコを準備して祥子さまへ。なんと祥子さまからも。他の人から受け取らない妹ひと筋の祥子さまから自分だけのチョコをもらえる主人公、羨ましいぞこのっ! しかも祐巳ときたら人気者になっているので、下駄箱にもひそかにファンからのプレゼントの山が。この祥子の照れ顔のイラストと、祐巳のちょいと惚れそうな発言、にやけっぱなしですわ。祥子はぼんやりと鵜沢美冬のことは覚えていたみたいなんですね。あと、白薔薇姉妹はいつもそうだが清らかでいいねえ。姉妹じゃないけど、蔦子さんと笙子ちゃんとか。新聞部の上司部下とか、山村先生とあの剣道部の彼女とか。微笑ましい風景があちこちで。女子高って、ほんとに女子チョコだらけなんでしょうかね、実際も?

前年の祥子さまの温室のカード事件が印象深い、あの探し物企画がなんとバージョンアップして今年も再演。しかも不在者投票のようなシステムつき。
瞳子に参加を促すときの、祥子さまの祐巳評がなんともいいですね。ウラオモテがない性格だからこそ、ひねくれ者の繊細ヤクザな自分の弱点を暴かれているようで怖い。けれどもそばにいるのは好きだから、と。

「私はね、今の自分に嫌な部分があるのなら、祐巳という鏡に映りながら、その部分を好ましく変えていけばいいと思うようになったのよ。まっすぐな若木がうらやましいのなら、もたれながらでもいい、巻きついてでもいい、一緒に太陽を目指して枝を伸ばそうって決めたのよ」

祥子が挑発したのは、祐巳を巡って、瞳子とライバル関係になりたいということ。
いやあ、この台詞びっくりじゃないですか? そして、祐巳なら絶対に言わないでしょうね。「レイニーブルー」の回あたりの、祥子さまを争って、妹の座を横取りせんかというふてぶてしい態度だったこの一年坊が、まさか、憧れのお姉さまとこんな対立構図になってしまうとは。そして、負けず嫌いの瞳子がこの勝負に乗らないはずがない。

参戦したものの、カードの隠し場所をあさって社会科準備室まで訪れた瞳子。
そこへ追いかけてきたのは、乃梨子。乃梨子は前回、置いてけぼりにされてしまった瞳子立ち上がらせたのでしたが、今回は甘えさせたままではありません。自分だけが見つけやすい場所に隠したのではないかと期待した瞳子をたしなめるように、苦言を呈する乃梨子。だって、福沢祐巳はだれかひとりだけの姉ではない、みんなの紅薔薇さまになる方なのだから、と。狭い部屋で祐巳様を探すな、あなたが考えているよりも、祐巳さまは大きいのだから。こんな狭い部屋にははいりきらないぐらい、と。この部屋のたとえって、「くもりガラスの向こう側」にもありましたが、たぶん、部屋=そのひとの心の広さ、度量ってことですよね。自分のことしか見えていない瞳子と、妹にしたい子だけではなくて学内全体の生徒のことを考えて、主催者としてのカードの隠し場所を考えていた祐巳。その差を乃梨子は語っていくわけです。そして、その言葉は瞳子をどこへ向かわせるか気づかせていく。泣きながら言ってくれる乃梨子も、会心した瞳子も、この二人は美しい友情ですね。このシーン、安堵呼んでも胸を打ちます。

さて、薔薇の館ではいつもへた令ちゃんと由乃でひと悶着あったり、田沼ちさとにカードゲットされたりと黄薔薇さんちはひと波乱。白薔薇カードはヒントがあったのにゲームオーバー。そして、紅薔薇はといえば――。

祥子さまはなんとなく祐巳の隠し場所にお気づきな様子。
祐巳としたらバレたのでないかと冷や冷や。で、そこへ猛烈な勢いで突進してきたのが瞳子、しかも「私を妹にしてください」発言! 逆プロポーズですよ! 祐巳もあまりのサプライズに動転して…。ここの顛末、ひとによって賛否あるでしょうが。それにしても、今回の三人の隠し場所、とんでもないとこばっかでしたね! 

・「地図散歩」
祐巳と瞳子との衝撃の告白シーンがぶつ切りで終わった前半部。
後半はなんと、お宝さがし事前の準備エピソード。時間をさかのぼっているので、正直、初見時はお預け状態でおもしろくはなかったのですが。再読してみれば、イベント主催者側の苦労といいますか、山百合会幹部として生徒の安全や校内規律を考えて策を練ったことがうかがえるわけですね。
祐巳はいったん、そこで瞳子を念頭に置いた隠し場所を検討するのですが、参加者全体の利益、および誰にでも開かれた山百合会を目指したいという選挙時の公約を思い出して、撤回することにします。ここが祐巳と祥子の違うところなのかもしれませんね。祥子さまのチョコを「私だけに見せる顔で」なあんてしれっと言いながら、将来の姉としての風格も備えつつあると。

それにしても、移動するカードだとか、池のなかだとか、とんでもないアイデア思いつくもんですね。昔のバラエティ番組のそういう探し物企画みたいなのがあったようなワクワク感がありますけども。

再読してからシリーズのほぼ半分は制覇しましたが。
ほんとに、人間関係上、有益になるような言動があって、私自身の会社ライフでもとても役立っています。女性が多い職場や、管理職ポジションの女性が読んでもヒントになる部分が多いのではないでしょうか。今野緒雪先生は、小説家になる前に、お堅い職業に就かれていらしたのでそのときの経験が活きているんでしょうね。学生気分でもなんちゃって百合婚な百合ではないのが、お気に入りなんです。傷ついた後の心のレジリエンスをしっかり描かれているというあたりが魅力的ですね、とても美しい。


【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。


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小説「マリア様がみてる」のレビュー、公式関連サイト集、アニメ第四期や姉妹作の「お釈迦様もみてる」、二次創作小説の入口です。小説の感想は、随時更新予定です。








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