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Channel: 陽出る処の書紀
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自分の暮らしをつくるという喜び

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鋏(はさみ)の誕生は紀元前10世紀、古代ギリシアで羊毛刈りのために発明されたとされています。和ばさみのようなU字型が最初で、のちに刃をXに組み合わせたローマ型の洋ばさみが普及したと。ナイフがすでに石器時代(約200万年前~紀元前8000年)から使われ、金属が道具の中心になった青銅器時代のはじまりが紀元前3000年ごろとされるので、最初の鋏が誕生するまでに何千、いや何万年ものあいだ、人類の営みがあったと考えられます。百均でもどこでも買えてしまう、ありふれた道具ですが、とんでもない歴史があるものですね。

そして、この鋏があるおかげで、紙を切り分け、料理ができ、草木を断ち切り、いろんなものをこしらえることができるのです。ナイフで切るよりもはるかに安全で力要らず、こんな便利極まりない道具を最初に編み出した人は天才としかいいようがありません。なのに、その人の名前は残っていないのです。なぜならば、その当時には記録がなかったから、なのでしょう。

日曜になると大工に変身する世の趣味人は多いもの。
亡き実父も工作マニアなのか、釣りの浮きを自作する機械(電動ドリルを分解して木の台に設置した謎の見た目(笑))やら、電熱式の防寒ウェア(市販のスキーウエアの中に電気毛布の配線を仕込んだもの)やら、とにかく、もの置き場のなかに、手づくり品が残されていたものでした。

私が空き家で発見した謎の手づくり品は、座布団やスポンジを巻き付けたお風呂の椅子。見た目が面妖なので、必死に分解しましたが…後年になって、なぜ、これが必要だったのか判明。草刈りや収穫での座り作業で、この椅子をつかうとかなり楽なのです。前住人はなるべく長く健康に働くために、これを考案したのでしょう。

万博記念公園にある民博もふくめ、全国の博物館には古い手道具を集めたものがあります。多くは農具や大工道具などですが、牛や馬に曳かせて田を耕す道具ひとつにしても、最初にあのデザインを考えた人はすごいものだ、と。鍬(くわ)や鋤(すき)でも、刃の角度が違うものいろいろで、畝づくり用に平たくなったものや、土に食い込む角度を計算したもの、さまざま。

私がこの冬の時期におこなう恒例の防寒対策ことぷちぷちカーテンも、ウェブ検索からの入れ知恵でした。今ではワイドショーなんかでも紹介されていたりする。小学生でもできますし、手先の不器用な人間でもできます。実にすばらしい。この防寒対策のどこがすばらしいかといえば、家の寒さがどこからくるか? それは窓(や壁、天井)の隙間からだ、という真理に目を向かわせたことです。惑って閉めてるからむしろ寒さを塞いでいるように見えますよね、でもそうじゃない。

そして、この梱包材(あるいは緩衝材)を窓の隙間に詰めるという発想に至った人、すばらしいです。クッションみたいなものとした思えない名前から、そんな使い方をするなんて、思いつかなかったから。

トイレの水が流れっぱなしになった。内部の部品の原理を理解して排水栓が閉じられるように修理したら、自分で直せてしまった。節約になったのも嬉しいですが、業者を呼んであれやこれや説明して、家に上がり込まれて、という煩わしさをカットできたのがとにかく嬉しかったわけです、私には。

世の中には途方もなく、自分の暮らしを快適にするための欲望が渦巻き、それを形にしてしまう猛者があふれています。
なぜ、こんなに不愉快なのか、苦しいのか、使い勝手が悪いのか。日常にあふれているうんざりな出来事にただ溜息をついていくばかりではなく、ありあわせの市販品で自分のご機嫌をとって紛らわすでもなく、手近なものをつかってどうにかこうにか改善できないかと考え、悩み、試行錯誤して、答えにたどり着いた人たちがいたわけです、きっと。ある道具を生み出すために命を削った人もいたでしょう。その多くは名も無き人々だったはず。

手づくりの道具や日用品、素人ながらの室内リフォームや工事。お金をかけないで、有り余るものを活用して暮らしを楽しくする喜び、それこそがクリエイティブといえるのかもしれません。誰にも指示されず、枠にもはめられず、自分だけの暮らしを楽しく明るく、ワクワクしたものにするために、何かをつくる作業は心の豊かさを取り戻すために必要なのかもしれませんね。


(2024.11.24)






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