カフェ巡りが好きな知人がいて、よく食べ歩きに連れまわされたものです。
料理好きな知人いわく、いつか自分のお店をもちたいとのこと。自由な時間に働けてのんびり暮らせそう。さて、そんな理想は実現するでしょうか。
最近、以前通っていたカフェが閉店になっていました。
姉妹で経営していた、手作り感のあるお店でしたが。知人ははしゃいでいましたが、私はこの店は長く持たないだろうと思っていました。シェフが姉で奥にいるが、配膳にくるオーナーの妹さんがいやいや仕事をしている感満載だったからです。資金繰りが悪くて、お給料もまともにもらえてないのでしょう。置いてある本も、読みさしのデザイン系だけれども古い雑誌ばかり。お皿はちぐはぐで揃っていない。机やいすも自家製なのですが、ペンキの塗り方が雑で野暮ったい。なのに、価格はお高め。明らかに自己満足な商売をしています。女性受けはいいのでクチコミでそれなりに流行るでしょうが、客筋の経済状態が悪くなったら…と思ったのがドンピシャでした。
家族従業員の無償労働が多いのは個人事業でありがちなこと。
農家の嫁は悲惨だからと敬遠されてきたものです。ところが、最近は農家でも、家族を雇う場合に労働協定を結び長時間労働にならないよう配慮されているようです。個人農家ではなくて、一定規模の法人成りできるような経営規模のところが多いようですが。
私の旧友でもデザイン会社を立ち上げたはいいが、結局、特許もある会社を身売りして、会社員に再雇用されたケースもあります。彼女はまだしも正社員としてマーケティング担当者に抜擢されたからいいものの、いったん社長職なんぞを味わってしまうと、他人に頭を下げて働きたくないと思う、社会復帰できない事業主もいます。それこそ、髪結いの亭主みたいな。
また、いつか起業するぞ、SOHOで自宅で仕事をするぞといいながら、ずるずると東京で派遣仕事ばかりを重ねている知り合いもいます。都会だからいくらでも雇い先は見つかるでしょう。けれども、派遣の業務では、ぜったいに起業できる能力は身につきません。なぜか?
それは派遣業務は、「専門性が高い」とはいいながら外注する業務だからです。
言い換えると、会社の経営管理部門に必要な業務ではない。実際のところ、経理や総務の事務業務は派遣仕事ではほとんどなく、あっても大企業でのそれは、補助的な業務がほとんどです。転職活動ではあまりスキルとして評価されない恐れもあります。
いくら高度なアプリの開発技術があろうとも。お客さんに大人気のアクセサリー製作や、料理の腕を磨こうとも。それをきちんと売るための販売戦略や、人員の管理、お金の管理経験がないと、たちまち経営に行き詰まることになります。ホンダという会社が大企業になったのは、技術畑の創業者と、経営センスのある事務畑の人間がタッグを組んだからです。エンジニア職の人間は、ともすればITスキルが低いと事務屋を馬鹿にしがちですが、30歳を過ぎるとSEがフリーランスになるのを会社からけしかけられるのも、管理職にならない技術者の社会保険料を削減してしまうからなのです。あちこちの会社を渡り歩いてスキルを磨くのもいいですが、いつか、ダンピングが起きてしまうことも考えられます。これはどの職種でもありうることですが。
これは士業有資格者でも同じこと。事務所を開設しても人の話を聞く耐性がないひとは、いくら法律に詳しくても、独立専業の業務には向いていないのです。私が所有する行政書士資格の開業者はとにかく廃業率が高いですし、他の資格と掛け合わせても、顧客を得るのはなかなか難しい時代なのです。
派遣で仕事をしていた時に副業で占いだの、なんだのの個人事業をやっていますという方は幾人かいましたが。
事業主として必要な経理や総務知識の経験がない方がほとんどでした。事実、事業所得ではなく、ただの雑所得としての収入規模しかないわけです。会社員給与との損益通算もできませんから、確定申告もまともにしていなかったりします。こうした人に、たまに、経理として雇ってあげるよと上から目線で言われるのですが、まずとんでもない、ありえない金額で雇おうとします。あなたの事業を法人化して、登記もおこなって、きちんと社会保険をかけてくださいね、と言い返したら黙り込まれます。
ネット上の経理作業のアウトソーシングは、ただの記帳代行作業なので経理としての業務経験が積めるほどではないでしょう。会社で経理や総務の経験をしたことがないので、その業務に対する賃金の相場も知らないし、労基法も知らないので、すこし詳しい人をタダ働きさせたらいいやとしか思っていないのです。
ひとり事業主になるというのは。
自分の専門分野だけを磨くことではありません。事業主を名乗る以上はしっかりと事業上の会計数字を明らかにし、帳簿に記帳して、公認され、納税する必要があるのです。あなたの作ったものが、その業界で一流かどうかは税務上どうでもよろしいことです。技術が高くても、お金の支払いがなおざりの人や納期を守れない人は、社会人としては三流ド三品もいいところです。
本当に仕事ができる事業主は、いざとなったら、自分ひとりで人を雇入れるための書類作成や経理作業は行えますし、営業にも行けます。
もし、将来的に独立開業を希望するならば。まずどこかの企業で、会社経営の基本と、営業や経理のスキルを身につけるなり、自分でできるように習得すべきです。個人事業主としての経理経験は10年もやれば、職歴としてみなされることもあります。
素人さんがよくやりがちな飲食店の経営は、数年での廃業率がかなり高い業種です。
五輪景気めあてに開業したはいいが、コロナショックで多くのお店が借入金だけを残して店を畳んでしまったのでしょう。のんびり自宅で職住近接で働けると夢を描くのは大間違いです。お客が来なくても店舗の維持費がかかる。それを計算できなければ、たちまち、用意した開業資金もショートしてしまいます。
自宅でなにかをものをつくって売るのでも。
きちんと素材の仕入れをし、運賃などの経費を管理し、粗利益を把握しないと、ただ好きでモノを作ってるだけの在庫が増えて、しまいに家のなかが売れない不良品だらけになります。趣味の同人誌や、自費出版の本などがまさにその典型例です。芸術家肌や学者感覚、職人気質のひとは、とくに、自分がなにかつくれば嬉しくて、利益を考えないので、ビジネスとしては絶対に失敗しやすいのです。契約の締結のしかたもしならいので、たちまち、作業の請負単価を減らされたり、不当な契約を結んでも対抗できないままでは、事業主を名乗る資格はありません。
事業をはじめることは誰にでもできます。
会社だって、1円で起業できます。けれども、それを十年、二十年と継続していくのは難しいのです。そのための準備もなにもしていないのに、独立開業するぞと言い張る方の多いこと。下手したら、どこかの社長の娘の婿養子にでもなって、もはや出世の望めないしがないサラリーマンから足を洗えると考えている方もいたりします。こんな無責任な、自己本位な、人生ギャンブル感覚で事業主になる方は、市場から追い出されますし、取引で関わったひとは不幸にされます。お金と地位さえあれば、自分は世の中から尊ばれるとでも思っているのでしょうか。
売りたいものののモノやサービスの品質を高めるのはもちろんですが、大事なことは、経営していけること。お金の管理、時間の管理、ヒトの管理をしっかりできることです。専門性の高さはあくまでも二の次です。一流の仕事をしていうはずなのに、売れなくて、世の中を嘆いてるというひとは、まず、自分のお金や時間の管理を見直してみましょう。売れなくて困るとSNSでぼやいている暇があったら、他の仕事でも探して別のスキルを見つけた方が身のためです。
(2022/08/27)