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Channel: 陽出る処の書紀
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自分の感動を作者や作品の人気で量る者はオタクではない

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拙ブログの設立契機となったとある作品をことあるごとにプッシュして、すでに十数年が経過しています。

あけすけに言えば。
私がその作品を追いかけるのは、その制作陣に操を捧げているとか、その表現に惚れこんで当代随一のものと信じているから──ではありません。

その作品もしくは作者の出されるものにつき、ずっと応援していないこともありますし、傾向が変わったら静観することもありますし、記事にはするけれどもかつてほどの熱はなくなっているのかもしれません。

それでも、それに執着するのはなぜか。
それは、その作品群に新規にハマるひとの動向をおもしろおかしく観察してみたいから、なのかもしれません。もちろん、他の方に自分も観察されていることを見越したうえで。

SNSが苦手とは申せ、チェックを怠らないのもそのためです。
その作品、もしくはその界隈がどういった興味があり、他にどんな作品を好み、何ごとに怒り、何ごとに喜ぶのか。この傾向は一元化されるものではありません。ただ、おおよその派閥があることは、うっすらとわかります。

最近いささか驚いていますのは。
ブームが過ぎてはいるのだけども、いまだにカルト人気があるものについて、好意的な発言をすると、かならずそれにかぶせて、あれは時代遅れだ、その時代だから賞賛されたのだ、という声があることです。

私も自分が好きなものはもはや伝説と化した言われるぐらいですから、古い埃をかぶりかけているのだろうということは承知しています。
でも、この作品はもう廃れた、時代の最先端ではない、といっしょくたにあるものへの嫌悪感を語ってしまうときには、その本人が気づいてはいない、恐ろしい前提があります。それは、こうした老化や敗退は、どんな作品にでも訪れてしまうということです。

現在の人気の絵師さんで、レオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザ風や、江戸の浮世絵の美人画風に描くひとなんていません。けれども、今それがファッションではないからと言いまして、ダ・ヴィンチやら歌川広重やらの絵が価値がないとは誰も思っていません。萌え漫画やアニメしか観ない人なら別ですが、すくなくとも多少なりとも大人の分別と教養がある人間は、そんなことを言いません。

つねに新しい、アップデートされているものが文化として正しいのならば、後世に伝えられた名画名作の多くは破壊されねばならなかったはずです。では、なぜ、それらは残ったのでしょうか? 作者は息絶え、子孫もなく、そのパトロンさえも滅び、その国すらもかたちを成していない。なのに、なぜ、その名画は残ったのでしょうか? 教科書に載り、歴史上の美学として、文化の一頁として語られているのでしょうか。

その名画がたまたま戦禍をくぐりぬけ、権力と財力のあるコレクターの庇護下に入り、もしくは国家的な保護を受けたから。物理的な生存戦略としてはそうなのです。けれども、それだけではないだけの理由があるでしょう。

一点物の芸術作品は、かつてその価値を知る者は限られていました。
教会のステンドグラスも壁画も、貴族屋敷の襖絵も寺院の天井画も、庶民の目には遠いものでした。その価値は、その庇護者の権威とともに護られていたのです。そして、そうやって生き抜いたものはたしかに古いというだけで価値を見出されてしまうことはあります。

しかし、現代に生まれたものがまだ時代の判定をどう受けるのかなどは、私たち現世の人間には知る由もないことなのです。それを判断するのは、たぶん、百年も二百年も先のことです。今ある多くのサブカルすらも、語り継がれるのはほんのごくごく一部のみでしょう。

ですから、その作品と向き合う今、ここでの感動を、それがいかに世間に認知されているからとか、商品としての購買力があるとか、そうした一時の外発的な動機付けで加味しても致し方のないことです。その価値判断のなかには、自分というものがない。

あなたは自分の好きなもの、付き合いたいものをいかほど目に見える強い数字を持っているかで選ぶのですか。もしそうならば、その数字が落ちたときに、それを推している自分の価値が下がってしまうのでしょうか。その埋め合わせのために、また新しいものを次々に入手するのでしょうか。

もちろん、私も若い頃、マイナー作品の横で商品展開やスピンオフが続々とつくられるメジャー作品にハマり、その人気に酔うていたふしがあるのです。だからこそ、その人気が潮を引くようになくなってしまったときが虚しいということを、体感したものです。

自分の感動を作者や作品の人気で量る。
私が思うに、それはいわゆるオタク的な楽しみ方ではないということだけです。ただの投機対象か何かなのでしょう。


(2021/09/20)

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