2020年の11月下旬に、ツイッター上で二次創作がトレンドにあがりました。
同人界でよくある学級会が起こったようです。野次馬根性で覗いてみると、とあるプロの漫画家が自作の二次創作をされるのを嫌がる、それを喜ぶ世間の風潮がいやだ、という内容でした。
この意思表明は、すぐさま、ツイッター上に雨後の筍よろしく現れた商業漫画家の「私は二次創作OKです」の反論によって、つぶされてしまいました。
匿名ではてなブログに書かれ、数時間後に消去されたものだったので、愉快犯らしいとみる向きもあるようです。真相は不明です。
ところで、当時、私もその「お気持ち表明」に対する異議申し立てなる記事をいきおい書きましたが、すぐの投下を控えました。
といいますのも、作家業もタレント業もそうですが、そうした人気稼業といいますのは、自分たちの業界人よりも圧倒的に多い一般人の応援者がいてこそ成立するわけで。国民のなかでいえばマイノリティなわけです。選ばれて昇りつめたかに見えるが、拠り所にするものは細い。なので、ただの趣味人の二次創作者として、二次創作を弾圧しようとするプロフェッショナルの意見には真っ向から抗したいけれども、それは世間の後ろ風を楯にしてやりたくないな、という気持ちがあったからです。多数決の正義だけがまかり通る世の中は息苦しい。
そこで、今回はひとまず、二次創作者は原作者ふくめ公式にご迷惑をかけているんだよ、それを自覚していないわけではないのだよ、という反省文を書くことにします。
作品愛の重すぎた、二次創作者がやりがちな過失を列挙してみると…。
・自分が二次創作しやすい特定の傾向しか顧みない
版権者はあわよくば多様な作風に挑戦し、作者自身のファンでいてほしいと願います。しかし、二次創作は萌えのシチュエーションにこだわりがあるので、新作でそれを崩されると下手すると発狂します。一歩間違うとアンチになりかねない。とくに百合とかBLだとかにこの傾向が強いような気がします。
・お気に入りカップルにしか興味がない
SNS上での紹介文がわりにA×Bと書いているが、原作ジャンルを書かないひとをよく見かけます。作品の舞台とか流れから抽出したAとBのことにしか関心がない。その他に作者が発するメッセージなどどうでもいい。作者の欲するテーマ追求のためにAかBかが酷い目に遭いそうものならば、黒歴史扱いになる。
・推しが死ぬイベントが発生すると勝手に蘇生させる
キャラの生殺与奪を握るのは、版権者さんだけです。ですが…キャラ可愛さのあまり自作で弔いならぬ復活させようとする。お前は神龍かい! すみません、これとは逆にかってに死亡させたこともあります(土下座)。
・推しを幸せにする夢女子になりきる
キャラの彼女気どりになる女性ファンを夢女子というそうです。二次創作でモブの総受にしたりする男性向け凌辱ものも、ある意味夢女子と近いかも。たぶん、これが嫌いな原作者は、わが子に勝手に横恋慕する彼氏彼女ができたと見なしているのかもしれませんね。もしくは、そのキャラと自分が同化しているので、消費者の欲望にさらされるのが厭わしいか。
・二次創作者にネタバレされる、先取りされる
原作内で匂わせていた伏線を、察しの良すぎる二次創作者が創作して先に回収されてしまったり。あるいは雑誌やアニメの未見組に配慮せずにネタバレ感想を描いてしまったりする。原作者の創作意欲を削ぎ、経済的損失につながりやすい。いちおう、原作ネタバレありますよ、の注意書きはしていますけどね。
・二次創作だけで満足されて、買い手にならない
ゲームをプレイしたことがない、人気漫画やアニメを無料動画で見ただけでなんとなくノリで二次創作しましたのパターン。俗にいう同人ゴロと呼ばれる同人作家が原作ジャンルをほとんど知らず、いつもの色艶ものを「顔だけ」描き分けて量産しているというのもよく聞く話です。ただ、二次創作させていただいているとはいえ、すべてのアニメグッズやら、DVD全巻やら、イベント応援やら、スピンオフ作網羅やら、何から何までお金をかけられるわけではないのはご理解いただきたい。
・二次創作で間違ったキャラ改変やストーリー理解が独り歩きする
これは二次創作があまりに人気を得すぎて、本家を侵略しすぎてしまうパターン。もともとは硬派なキャラが唐突に恋話要員としてカップリングされたり、ネタ扱いされすぎて雑魚と化したり。二次創作というか、ネット界隈での面白半分のキャラの印象をうのみにしてしまい、ストーリーを読解せずして、キャラの心理や言動を固定観念で決めつけてしまったりします。
二次創作者のおおよそは、こういった弊害は理解していまして。
だからこそ、公式に歯向かわないように、応援のためにできる範囲でお布施をしたり、思うところがあってもオブラードに包んだりしています。自分の二次創作を公式が嫌がっているかもしれないという懸念は、だいたいのまともな二次創作者ならば思い及んでいるところでしょう。
もちろん、私はその作品を長年応援している、深く愛している、というのは、好き勝手に二次創作をしていい免罪符ではありません。
しかし、二次創作それ自体もまた、作者に対するうかつで粗忽な感想の一形態でもあるということは、覚えておいてほしいのです。別に原作ジャンルが気に入らないので、かってに私が修正しときましたよ、というのではなしに。
そもそも、原作者を害する目的で二次創作をするひとはほとんどいません。
しかし、いまのSNS隆盛時代に、どのような有名人でさえ、ファンからの反響がすぐさま飛んでくるような危うさがあるなかで、自分の生んだものの本質を奪われていくのは心苦しいものではあるのでしょう。
二次創作者は、その原作者が自分の二次創作を嫌っているかもしれない、という懸念を抱かないわけではない。
しかし、二次創作者もまた読者でありファンでもあるわけで。二次創作が厭わしいのでファンに呪いをかける原作者がいるとするならば、それはとても悲しいとしか言いようがありません。少なくとも、プロのクリエイターとは、その作品の受容者が幸せになることを願って創作しているものだと私は信じていますし、素人は「書いた人だけが幸せになれるもの」にはお金を払わないでしょう。
それと、二次創作を禁止にするか否か等の取り決めは、読者という「世間の空気」に訴えるものではなく、原作者と出版社とのあいだでの個々の契約にもよると思われます。商業作家ならではの、編集者さんの圧力、もしくはお近づきになりすぎた読者からの礫かなにかでストレスがあるのは、お気の毒としか言いようがありません。
(2020/11/24)
【二次創作者、この厄介なディレッタント(まとめ)】
趣味で二次創作をしている人間が書いた、よしなしごとの目次頁です。
二次創作には旨みもあれば、毒もあるのですね…。