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Channel: 陽出る処の書紀
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正規雇用と非正規雇用の待遇格差(前)

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さる10月13日に、最高裁で注目すべき判決があった。
医大勤務のアルバイト職員が正職員にある賞与・退職金をもとめたもので、一審、二審をくつがえし、原告側の請求を棄却した。この50代女性職員は、正職員と同じ秘書業務に従事していたと主張するも、正職員は部署移動や出向などがあるので、待遇を同等にすべきではないという判決であった。

ここ近年、同一労働同一賃金の旗印のもと、パートタイム労働者や派遣労働者の待遇改善を求める動きが加速している。
2020年4月からは派遣法改正により、派遣労働者にも交通費が支給される運びとなった。派遣元は賃金計算のために、派遣先に正規雇用従業員の職種ごとの平均賃金のデータ提出を請求することができる(義務ではない)。

非正規雇用の賞与支給をめぐっては、運送会社や日本郵政公社などでの判決が記憶に新しいところ。いずれも、非正規雇用の待遇改善へと前進した。

労働契約は、民法にある三大基本原理のひとつ「私的自治の原則」に基づく。
法律上「個人」と「法人」は対等なのであり、また労働基準法でも、労使対等の立場で労働協約、就業規則、労働契約を遵守する義務があり(法2条)、かつ、労働条件についても「国籍、信条、社会的身分を理由として」の差別的取扱を禁じている。ところが、この「社会的身分」には、事務員と工員などの職種、正社員とアルバイトのような雇用契約の違いは含まないという。

非正規雇用を保護する法律としては、間接雇用と直接雇用とにわかれる。

労働者派遣法30条においては、近年の法改正で、不合理な待遇の禁止が盛り込まれた。これは「派遣先の」通常労働者との均等・均衡待遇改善をめざす「派遣先均等・均衡待遇方式」ないし、派遣元が各自労使協定にもとづき待遇決定する「労使協定方式」とがある。いずれにせよ、スキルに自身があるならば、派遣労働者はより高待遇の転職をしたほうがいい。

アルバイト、契約社員などの直接雇用は、パートタイム・有期雇用労働法に詳しい。
こちらは本年4月1日改正施行されたばかりだが、短時間・有期雇用労働者の果たす役割の重要性をあらためて明文化した画期的な法律である。
昇給、退職手当、賞与、相談窓口の特定事項につき、事業主は雇い入れ時速やかに明示義務があり違反すれば過料10万円の罰則あり。

今回の裁判の争点となりうる法的根拠としては、このパート労働法の法8条:不合理な待遇の禁止がそれにあたるだろう。
短時間・有期雇用労働者の基本給・賞与その他の待遇について、通常の労働者の「業務内容、責任の程度」「職務の内容及び配置の変更の範囲」を考慮して、「不合理と認められる相違を設けてはならない」

今回の判決をめぐっては、要するに、この原告女性の職務内容は正職員と同等ではないと宣告されたということだ。しかも、裁判長はなんと女性であった。

なお、短時間・有期雇用労働者に限らないが、労働関係の紛争には裁判ではなく、まずもって労使双方歩み寄った自主的な解決が促される。都道府県労働局へ相談すれば、調停や斡旋などの協議の場が設けられる。ただ、今回のような賃金上昇などの明確な待遇改善をめぐっては訴訟を起こすしかないのが現状だ。

あらかじめ、非正規雇用の賃金、賞与・退職金の有無は労働契約でとりきめ合意したのに、後出しで裁判でひっくり返そうとするのは非正規の傲慢だという向きもある。
しかし、非正規労働者に求められる労働力と、事業主が払うべき待遇とは経過年数に応じて釣り合わなくなってくることはありうるだろう。年をとれば経験値も上がるのに、それに見合った待遇が得られないと不満が募るのも当然なのである。

法律で非正規雇用保護の条文を決めていても、労働契約は組織ごとに異なるのであるから一律に同じにできるはずもない。
しかし、個別事案として考えるにしても、同一労働同一賃金推進の流れに逆行しかねない判決であり、忸怩たる思いが残るものではある。


次回は私論もまじえて、もう少し掘り下げて考察することにしたい。


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