Quantcast
Channel: 陽出る処の書紀
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2157

働いても、働いても、報われない氷河期世代のゆくえ(前)

$
0
0

やたらと特定の世代ばかりバカにしたり、あるいは構いすぎるのもよくありません。
しかし、こと、われわれ就職氷河期世代は同情もあるが、侮蔑も多いものです。

読売新聞2019年10月22日朝刊には、「氷河期世代 貧困と不安」と題された記事が。
就職氷河期とは35歳~44歳が中心層。団塊の世代、バブル世代につぐ人口のボリュームゾーンでもあり、その数およそ1700万人。うち正社員は916万人。非正規職は371万人。非労働力者(専業主婦・引きこもり・無業)が219万人。自営業者94万人。会社役員46万人。失業者33万人。

現役世代の貧困と不安定就労は、なにも氷河期世代のみの問題ではありません。
しかし、非正規労働の掛け持ちで休日や夜まで働き、余暇を楽しみリフレッシュする余裕すらありません。同世代も非正規職ばかりなので、結婚にふみきれない。実家ぐらしで家に生活費を入れているのに、既婚者からは、子どもを産まないわがままに生きている、うちの子どもにあんたら生活保護予備軍の面倒見させなないでと責められる。正規雇用者がうけられる会社の福利厚生など待遇格差がある。産休や育休が取得できず、老親が介護になると離職を余儀なくされ共倒れする。

キャリアアップしたくて資格取得しても、職場で煙たがられます。
正社員職にありついても、人手不足で業務量過多、理不尽な職場の習慣や閉鎖的な人間関係で疲弊する、そんなブラック企業ばかり。ホワイト企業に勤めるには非正規職しかなく、職場を転々とするので、人間関係もスキルもいつも断続的になってしまいます。この世代が働くことにドライで会社への忠誠心が低いのも当たり前でしょう。給与の高い正社員がめんどうな業務を立場の弱い非正規におしつけて逃げているのをみたら、働くことに絶望して生きているのさえ嫌になりもするというものです。どこの職場に転職しても同じような例にばかり遭うのですから。

日本で非正規雇用が拡充したのは、2000年前後からです。
就職氷河期世代の卒業時期と重なります。さらにバブル崩壊後の不況も追い打ちに。氷河期世代のみならず、いまや、それ以下の若い世代でも非正規雇用が多いのです。過剰な長時間労働で若い女性を過労自殺においこんだ電通事件の余波は、若者に根強く、働くことへの不信感を与え続けています。若い人がクリエイターになりたい、組織に属したくないと思うのも無理はありません。ゆとりある生き方、競争のない、個性を重視した考えをうえつけた教育を施したのは、この国なのですから。

長年来、不遇の立場に置かれ、必死に働いてまじめに仕事を覚えてもうけいれられず、バカにされ、けなされ、劣等感を植え付けられた特定の世代がいる。
働く意欲を失っているのに、優遇された年金をうける高齢者には働いて支えろといわれ、同世代では格差があって連携できず、誰からも理解されない。学校では成績がいい、部活でがんばっただけで褒められたのに、そうはいかない。親からは異性交遊を禁止されていたのに、30過ぎたらさっさと結婚しろ、できないのはお前が悪いんだと責められる。アニメや漫画文化に逃げてはいるが、子どものままの正義感や美徳のなかで生きることはできず、世の中の無常に生きるのがあほらしくなる。わたしたち氷河期世代は、そんな虚しさのなか生きる、悲しくももろい世代です。

自己否定ばかりうけつづけた世代に希望などあるのでしょうか?
私の同級生のほとんどで大卒者はもう地元にはいません。人手不足でサビ残ざんまい、噂好きな田舎のうるさい職場には嫌気がさしているので、都会に出ていって帰ってきません。自分の好きな仕事をするのが自己実現だと宗教のように信じている同級生からは、実家の生計のために腑に落ちない仕事を続ける暮らしぶりに嫌みをたっぷり言われましたし、こうして私たちは、同じ氷河期どうしでさえお互い傷つけあって自我を保とうとしているのです。新卒で大企業に入れない、公務員の枠もない、未婚で非正規のままだと恥だと親族に責められるから、みんな家族をすててしまったのです。そのうち、国を捨てて海外逃亡しはじめるかもしれません。

なぜ氷河期世代はおちこぼれたのでしょうか?
なぜ田舎の企業にはひとが集まらないのでしょうか?
なぜ若い人は働くことに前向きではないのでしょうか?
なぜ子育てや介護を抱えて働くことが難しいのでしょうか?
なぜ働いてうつ病にかかって立ち直れない人が増えているのでしょうか?
そしてそれは、特定の当事者だけの属性に帰属させて、責任を被せればいい問題なのでしょうか?

氷河期世代が直面している貧困や不安定就労は、すべての世代が今後等しく背負うリスクである。たとえ、キャリア官僚や高所得の経営者やエリートであっても、その子が不遇の労働者に陥る可能性もある──そのことを国民すべてが共有していれば、いまのような悲惨な状況はなかったといえるのかもしれませんね。非正規雇用ばかりが増えて、今や少数派で彼らがいないと仕事が回らなくなった大組織の正社員の皆さんは、そのリスクに早く気づくべきだったのでしょう。10年ほど前の派遣切りをせせら笑っていた正社員の管理職がリストラされて、いまは自分が派遣社員で元の職場にいるなんて笑えない事例もあるわけですし。

たった一人の労働者を悲しませた、冷たくあしらった。
やがてそんな小さな火種が、ある組織の崩壊、地域の乱れ、ひいては国の瓦解につながることに、多くのひとが気づくべきではないでしょうか。いくら外国人を受け入れても、雇用する側の意識が変わらねば犠牲者は増えるばかりです。


【関連記事】
働いても、働いても、報われない氷河期世代のゆくえ(後)
8050問題予備軍は、もはや氷河期世代だけのリスクではない。全世代の社会から落ちこぼれたひとに向けた、メンタルヘルス支援や労働教育の拡充策。企業の労働環境の改善と助成金や給付金詐欺を防ぐ取り組み。誰もが幸せに働ける意識改革が必要ではないのか。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2157

Trending Articles