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Channel: 陽出る処の書紀
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大人になっても読める絵本や児童書とは

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作家さんの読書遍歴みたいな紹介コーナーをのぞくと、お小さい頃からかなりの読書好きで、絵本や有名なファンタジー文学を嗜んでいた、とあります。
憧れの作家さんがどんな本を読んでいたのか、ファンなら興味がありますよね。逆に本の遍歴で嫌になることもあるでしょうけれど(苦笑)

教育熱心な親御さんのなかには、子どもの国語能力を高めようと、絵本やら児童文学やらを買い与えていたりもします。最近はキラキラした絵のイラストつきの偉人伝や、ジュニア向けの教本も多くて。賢い子に育てたいから、きれいな言葉づかいを学んでほしい。そんな思いから、いい本を子どもに与えたくなる。ものの言い方ひとつで、教育レベルが分かってしまうからです。頭のいい人が頭の悪そうな言葉づかいはできましても、その逆はありません。

私が子どもの頃の本といえば、野暮ったい挿絵ばかりなものですから、どうしても漫画でよむ歴史シリーズとか、字が大きめな絵の少ない戦国武将の伝記とか、そのあたりを好んで読んでいた気がします。そもそも親に読み聞かせをしてもらった覚えもありません。図書館の利用を頻繁にしだしたのも、大学時代からでしたし。高校時代に読んでいたのは、美術本とか、レタリングの書体本とかで、趣味が限定されたものばかりでしたね。

はじめて絵本なるものの良さを知ったのは、学業の傍ら、公立図書館で働きはじめてからです。その公立図書館は大学図書館や私の地元の図書館とも違い、絵本だけのコーナーがかなり充実していて綺麗だったんですね。

毎月の企画展示で絵本を紹介することもあって、そのポスター作製を手掛けた私は、参考のためにいくつかの絵本を手にすることもありました。

2021年に亡くなったエリック・カールの『はらべこあおむし』は全世界でのベストセラー本ですけれど、これもはじめて読んだのは二十歳を過ぎてから。
私が読んだ本はふつうの絵本だったのですが。ほんらいは穴が開いた仕掛け本だったそうで。本国の合衆国では製作できず、日本の偕成社が請け負ったそうです。幼児向けの絵本って、段ボール紙かと思うほど頑丈にできていますよね。でも、あの絵のカラーリングの感じ、クレヨンで対照色どうしを塗り合わせているようなあの配色、日本の幼児教育の絵画って、あれに毒されているような気がするんですよね。小学校低学年まではあんな思い切りのいい奇抜な色を塗ってくるんですけども、高学年ぐらいになると、ちょこっと立体的なイラストの本やら、線のすっきりした漫画やら、3Dの鮮やかなゲーム動画やらを読みなれてしまうせいで、色合いがオシャレなんだけど凡庸になっていくんです。

そういえば、メーガン妃だとか、貴乃花親方だとか、さては吉本芸人の誰それまで、有名人が絵本を書き下ろすことが多いわけですけども。
絵本って、小説ほどにはうまく筆が裁けない人のための、ていのいい作家ごっこの入口にされているような気がしないでもないです。本職の絵本作家さんから見れば、どう思われてるのでしょうか。ちょっと訓戒じみているというか、子供だましな面もあるんですよね。読者が幼いから大人がええかっこしいな話を書いても粗が気づかないだろう的な。同世代以上の大人にハブられている大人が子どもをビジネスの対象にして、尊敬されたがっているような。

すぐれた絵本は、わりと哲学的なことを暗示していたりもするのですけども。
短い言葉でこころをぶっ刺してくるような。現代では、ある意味、それをやっているのが漫画家さんですよね。見開き絵で延々と風景が続いたり、台詞が簡潔で絵がただの挿絵みたいになっている漫画の。

ちなみに私が児童文学や絵本が嫌いだった理由は。
親が買い与えなかったのはそうなんですが、字が大きくて中身が薄いので、もの足りなかったからです。絵本ですとせいぜい20頁で終わりますよね。活字中毒だと不完全燃焼。小学生のときの国語の教科書にある物語がすごく嫌いで、それを思い出すから、好きではなかったんです。社会の教科書は写真も図解も豊富で、情報がたくさん、いくら見ても飽きないのに。児童書でも読めるようになったのは、やはり大人になってから上橋菜穂子先生などのファンタジーに触れたことが大きいです。あれも、今自分の萌え少女のイラストだったら絶対に買いませんでしたけど。

でも、ちいさな頃から絵本やら児童文学やらに親しんだ子どもは、良心的な大人になれるのでしょうか? 
まあ、思春期にゆがんだ不健全な漫画やアニメばかり嗜んでいた者よりは多少はマシ程度ではないか、と思わざるを得ません。高校時代から文豪の名作などを読んでいた人はなんだか人生を達観しすぎているように見えて、実はこじらせていたな、と今から思ってしまうんですよね。何を読んでいるかよりも、それでどう感じたのかで、頭の中身や精神のよじれがわかるといいますか。自分も当てはまるので他山の石ではありませんが…。

(2021/08/23)



読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。





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