気弱な青少年がとつぜん降って湧いたような美しいヒロインを拾ったことから、いのちの危険にさらされながらの大騒動。日本のアニメでもよくあるおなじみのパターンなのですが、ヒロインはとりあえず生身の人間というのが、2007年のイタリア映画「あのバスを止めろ」。主人公がバス運転手だけに、ふたりで逃避行を図るロードームービーを匂わせますが、バスの出番はあまりないかもしれませんね。
あのバスを止めろ [DVD]
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気弱で生真面目な青年フランクは、ポーカーで負けては暴力的な友人の借金の取り立てに怯えている、しがない深夜バスの運転手。ある夜、路線バスを運行中に、裸足で乗り込んできたオレンジブロンドの美女と出会う。アレキサンドラと名乗る訳ありな彼女に強引に迫られて、否応なく自宅に泊めてしまったが…。
この彼女の正体、実は本名レイラという女泥棒で、盗んだパスポートを売りさばくのが稼業。
睡眠薬を飲ませてチンケなこそ泥を働いた男がたまたま闇取り引きをする最中だっため、知らずに合衆国大統領の地位をも傾けるようなトップシークレットのマイクロチップを入手してしまう。それを付け狙う二人組の刑事、さらにはマーティンという片足の不自由な謎のエージェントに付け狙われてしまいます。
正直者一筋の生き方のフランクを利用して逃亡を図ろうか画策するも、レイラの素性が暴かれてしまい、恋心も冷めてしまう。そりゃそうでしょう、いくら美人だからって嘘つき三昧の彼女に真心を捧げられるわけがない。ところが、フランク自体もまた謎のエージェントに追われる身となっているうちに、レイラの身の上話にほだされてか、南米へ逃亡を企てます。なんだか峰不二子に騙されるお人好しなルパンを思わせるシチュエーション。時あたかもその空港で、マイクロチップの引き渡しをおこない、逃亡資金まで手に入れるかどうかのチャンスが訪れますが、そこにあのエージェントたちも駆けつけて、まさに最後の最後まで目が離せない展開の連続。
本作が面白いのは、危険をくぐり抜けることで平凡な男性が危険な香りのする美女に惹かれて逞しくなっていくという王道もののラブストーリーに飽き足らず、年老いたエージェントとかつての想い人とのロマンスをも重ねているところ。マーティンがかつての因縁の部下と対決したとき、不測の事態から迎えるあっけない幕切れには、なんとも胸にやるせない想いがこみ上げますね。
堅物なだけに彼女に振り回されることを恐れて臆病になっているフランクが、最後には彼女をリードしてみせる結末は予想されるものの、果たせなかった熟年のロマンスと対比的に軽妙に描かれ、そのままコミカルなバスを舞台にしたエンディングへと流れこむことで、血なまぐさい一場面の重苦しさが払拭されているのがよいですね。
監督はダヴィデ・マレンゴ。
出演は ジョヴァンナ・メッツォジョルノ, ヴァレリオ・マスタンドレアほか。
クライムコメディと枠付けされていますが、どっちかといいますと、ロマンティックヒューマンサスペンスといったほうがいいのかも。バックミラーで後ろを見てばっかりの人生から、はじめて恐れを知らずに前へ飛び出すことを決めた男の恋の顛末。運転席から客席に移るだけで、景色が変わるものなんですね。
(2012年11月14日)
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気弱で生真面目な青年フランクは、ポーカーで負けては暴力的な友人の借金の取り立てに怯えている、しがない深夜バスの運転手。ある夜、路線バスを運行中に、裸足で乗り込んできたオレンジブロンドの美女と出会う。アレキサンドラと名乗る訳ありな彼女に強引に迫られて、否応なく自宅に泊めてしまったが…。
この彼女の正体、実は本名レイラという女泥棒で、盗んだパスポートを売りさばくのが稼業。
睡眠薬を飲ませてチンケなこそ泥を働いた男がたまたま闇取り引きをする最中だっため、知らずに合衆国大統領の地位をも傾けるようなトップシークレットのマイクロチップを入手してしまう。それを付け狙う二人組の刑事、さらにはマーティンという片足の不自由な謎のエージェントに付け狙われてしまいます。
正直者一筋の生き方のフランクを利用して逃亡を図ろうか画策するも、レイラの素性が暴かれてしまい、恋心も冷めてしまう。そりゃそうでしょう、いくら美人だからって嘘つき三昧の彼女に真心を捧げられるわけがない。ところが、フランク自体もまた謎のエージェントに追われる身となっているうちに、レイラの身の上話にほだされてか、南米へ逃亡を企てます。なんだか峰不二子に騙されるお人好しなルパンを思わせるシチュエーション。時あたかもその空港で、マイクロチップの引き渡しをおこない、逃亡資金まで手に入れるかどうかのチャンスが訪れますが、そこにあのエージェントたちも駆けつけて、まさに最後の最後まで目が離せない展開の連続。
本作が面白いのは、危険をくぐり抜けることで平凡な男性が危険な香りのする美女に惹かれて逞しくなっていくという王道もののラブストーリーに飽き足らず、年老いたエージェントとかつての想い人とのロマンスをも重ねているところ。マーティンがかつての因縁の部下と対決したとき、不測の事態から迎えるあっけない幕切れには、なんとも胸にやるせない想いがこみ上げますね。
堅物なだけに彼女に振り回されることを恐れて臆病になっているフランクが、最後には彼女をリードしてみせる結末は予想されるものの、果たせなかった熟年のロマンスと対比的に軽妙に描かれ、そのままコミカルなバスを舞台にしたエンディングへと流れこむことで、血なまぐさい一場面の重苦しさが払拭されているのがよいですね。
監督はダヴィデ・マレンゴ。
出演は ジョヴァンナ・メッツォジョルノ, ヴァレリオ・マスタンドレアほか。
クライムコメディと枠付けされていますが、どっちかといいますと、ロマンティックヒューマンサスペンスといったほうがいいのかも。バックミラーで後ろを見てばっかりの人生から、はじめて恐れを知らずに前へ飛び出すことを決めた男の恋の顛末。運転席から客席に移るだけで、景色が変わるものなんですね。
(2012年11月14日)